安曇野の屋敷林
屋敷林と言うと、富山県の砺波平野散居村が有名だと思いますが、安曇野の地にも点々と今も屋敷林が残っています。
この写真の地は、『蔵久』というかりんとう屋さん。一部は、今でも住居としても利用されています。以前は、酒蔵として運営されていたみたいです。屋敷は、1810年の建築で平成17年には国の有形文化財に指定されています。
屋敷林の樹種は、杉やヒノキが中心で構成されていて、
外周を巡る堀も水路として顕在しています。
屋敷林の廻りは水田で囲まれています。田植えの時期は水面も見え、稲穂を刈り取る頃には黄金色に染まり、屋敷林をバックにその時期時期で違った色合いを見せる水田とのコントラストは美しいものだと思います。
屋敷林には、色々な利用目的がありましたが、1番は冬の冷たい季節風から家を守るために存在していたものだと思います。冬の防風林だけでなく、夏は涼しいのです。屋敷林が太陽熱を直接地面に当てず、木陰を作ってくれます。そこで冷やされた空気が風として屋敷の中へと運んでくれます。冬も夏も過ごしやすい住まいを屋敷林が作ってくれていました。
杉やひのきの材は、建築材としても利用され、落ち葉は、囲炉裏などの燃料になり、灰は畑や庭の肥料ともなっていました。正に昔は、暮らしていく上で建物と屋敷林がセットだったのです。砺波平野の人は屋敷林のことを『カイニョ』と呼び、「屋敷は売ってもカイニョは売るな!」と言って代々、屋敷林を守ったそうです。家より外にある屋敷林が大切だったことが分かります。
中から見ると、今では、屋敷林を借景に手前に庭を作っています。涼しい風が抜ける座敷で庭を眺めながらのお茶は格別でした。ここからは、古い建築をご紹介。
築200年を超えた母屋。
建築も見応え十分です。
そして、周辺では、お墓と林がセットにありました。
ここでもです。ご先祖も守るのは林なんですね。大切なものやひとを守るのは、木々たちなんです。
現代の家では高気密、高断熱のつくりが主流ですが、屋敷林の考えを活かした庭と建物が一体となった敷地全体での住まいつくりを見直してもいいと思います。現代に、中々屋敷林をもってくるのは難しいと思います。これからの庭には、やはり雑木の庭。
雑木の涼しげな感じは一般住宅にも合いますし、冬や夏の日射しをコントロールできる力もあると思います。それも、もっと効果的にするには、南だけでなく屋敷林のように北や西面にも雑木の庭があれば効果的です。そのためにも建築と同時に庭や外構の計画が必要だと思います。