樹の気持ちに共感して、人間の生活も豊かになる
今回、大雨による北関東での被害、そして浜松でも各地洪水による被害が起こりましたがこれを単なる災害、異常気象だからという理由で片付けしまっていいのだろうかと疑問を感じます。また、その対策として洪水を防ぐためにどこかに大きな貯水池をつくる、崖崩れが起きない様にコンクリートで土留めをするといった対策ではイタチごっこだと思います。
全国各地で大地を再生する矢野智徳さんの言葉を思い出します。『今の気象学は地上のことしか考えていない。地下のことをもっと考えないといけない。』また、僕が尊敬する造園家の高田造園設計事務所の高田さんは常に大地の通気透水環境を整えながら植栽をしていきます。共に健全な大地が大切だと仰っています。
現代土木や機械化、都市化が進んで呼吸出来なくなってしまった大地が一つ原因なのではないかと推測されます。
人間の体内は60%水分だといいます。大地も同じ様に水分が多いと思っていいと思います。人間の体内の毛細血管のように大地には水脈という毛細血管が張り巡らされています。血管が詰まれば人間は死んでしまいます。大地も水脈が詰まれば死んでしまいます。大地も生きているのです。水は川として目に見えるのほんのごくわずかなもの、水は水脈を通して表面や地中をいったりきたりします。高田造園設計事務所さんの模式図をお借ります。表面の排水だけ考えたU字溝による排水やコンクリートで覆われてしまった水路や川では水が行き来できないのです。また、コンクリートやアスファルトで覆われてしまった大地は呼吸が出来ない状態で十分に水を吸い込めなくなってしまっています。
では、かつての住まい環境はどうだったのかというと、(こちらも高田造園設計事務所さんの模式図をお借ります。)
土留めは石積みで水や空気が通り、川や水路はコンクリートで覆わずに水が行き来できるように土のままになっています。
先日、山を背負っている現場がありました。お施主様から山からの排水が気になるとのお話しを頂きました。限られた予算の中でご提案させて頂いたのはU字溝は付けずに土の素堀りの溝をご提案させて頂きました。その結果、
写真の赤丸のところからコンコンと水が湧き出てきます。やはりU字溝で表面の排水だけ考えていては水は処理しきれません。むしろU字溝を据えていたら土中に毛細血管の用に張り巡らされている水脈をコンクリートで止めてしまうところでした。
洪水の一つの原因は、呼吸できない大地になってしまった。健全な地中環境を失ってしまったことなのではないかと推測されます。自然環境の仕組みをここで自分も含め我々はもう一度考えるべきではないでしょうか。
最近、手にした本にはこんなことが書いてありました。
『親の想いは樹も人間も同じだ。親木は少しでも子供が大きくなれるチャンスが増えるような仕掛けを種子の中に埋め込んでいる。巨木になれるのは、数千分の一にも満たないだろう。樹々の苦労など少しも知ろうとせず、人間の生活の豊かさだけを求めて簡単に伐ってきた。しかし、人間は少しも豊かになっていない。天然林を伐り尽くし多くは、スギやヒノキなどが植えられた。しかし、人工林は手入れもされず放置され、環境を保全する機能を大きくて低下させ、生物の少ない単調な風景になってしまった。どうしたら、水や空気をきれいにし、洪水や渇水を防ぐといった「生態系機能」を取り戻すことができるのか。生態系機能を維持することと末永く木材を収穫することは両立するのか。答えを出すために試行錯誤している。まずは、「樹のことをよく知る」ことから始めなければならない。樹々の日々の生活を知り、樹の気持ちに共感して初めて、人間の生活も豊かになるのである。』
樹は根を深く伸ばせば途絶えていた水脈を再生してくれます。健全な森では表層に落葉を蓄え表土を流さない役割をも担ってくれます。健全な森の土壌は通気もよく水も十分に蓄えてくれます。都市部でも呼吸出来る土壌を目指していくことが大切であり、樹や森に我々人間が生かされているということを考えていくべきだと思います。
先日、縁あって掛川市にあるNPO法人時ノ寿クラブさんを訪れました。
スギやヒノキで覆われた人工林を積極的に間伐をし本来の広葉樹の森に再生をされています。
間伐を進めた森は眠っていた広葉樹が光を浴びて芽吹いてきています。
尾根が透けて見える。低木がない山がこうなるんだよ!と楽しそうに幸せそうに話しをしてくれます。
この写真の方が理事長の松浦さんです。松浦さんは、10年以上も前から活動をされていて、人の住む近い自然林は更新するのが山も健全だと思うと話しをされ、次世代の子供たちに健全な森を引き継ぎたいとおっしゃいます。
こんな活動をされる方、本来の健全な山がもっともっと増えてくれば本当の豊かな生活が送れるのではないでしょうか。
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2013.10.09 |