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能登半島の災害復興から考える ー 自然と寄り添うこれからの暮らし

今年の元旦、能登半島では最大震度7の大地震が発生し、その影響で山々の地盤に亀裂が入り、各地で深刻な被害が出ました。護岸整備も十分に進まず、まだ復旧が行き届いていない場所が多く残る中、9月21日には追い打ちをかけるように記録的な豪雨が地域を襲いました。

そして、10月4日と5日、僕も「大地の再生」のメンバーとして矢野さんたちと共に現地に入り、復興の手助けをしてきました。
自然の力が残した傷跡は想像以上に大きく、地震と豪雨による二重の被害の爪痕が至るところに見受けられました。

珠洲市片岩町の被災地に向かうため、ナビを頼りに車を走らせましたが、なかなか現地に辿り着くことができません。
進む道を阻むように道路が陥没し、横を流れる川を見れば、今にも道路がさらに崩れそうなほど泥水が激しく流れていました。少し離れた山を見ると、その山が崩れ、土石流となって押し寄せたことが一目でわかり、地面がむき出しになっている光景が広がっていました。

当日の状況を思い浮かべるだけで、その恐ろしさが身にしみてきます。自然の猛威がいかに大きな力を持つかを、改めて感じざるを得ませんでした。


海を見ると、川から流れ出した泥水が海岸から広がっている様子が観察できます。


泥水が海底に沈殿し、通気不足が起こることで、海底の生態系に深刻な影響が生じる可能性は否めません。泥が堆積すると、酸素が届きにくくなり、海底の微生物や底生生物の活動が抑制されることがあります。これからの漁業が心配になります。

片岩町の現場に着きました。
道路は、つい最近まで泥が積り溜まっていたんだなと容易に想像ができます。車で通ると粉塵が広がるような状態でした。


豪雨の日、凄まじい勢いで土砂が流れ込んできたそうです。

ひとまず、玄関前の動線を確保する復旧作業が行われていました。

中央左よりにブロック塀の天端がみえます。人の胸高さ位の塀がすっぽり埋まってしまっています。


本来、集落方には水がこんなにもたくさん流れてこないのに、吐ききれない程の水が集落に押し寄せてきたそうです。土を山にし家屋の方には入らないように応急処置をされていました。
その水がどこからきているのか地元の方に山の上の方を案内してもらいました。

山から水が集落の方に押し寄せてくるのがわかります。
地元の方に聞くと、普段は水がこっちへ流れてこないとのこと。この奥に水路整備がされていてそっちに流れるはずが、土砂でつまり、流れなくなり、こちらの集落側へ流れてしまったそうです。

ひとまず、この日は状況を確認するだけで終わり、次の日朝から作業させていただくことになります。

さて、土砂崩れが起こり、なぜ集落の方に流れ込んでしまったのか、それを考えてみます。


Googleアースをみてみます。
場所は、片岩町の集落になります。
静岡県民からすると海が北側に位置するのにちょっと違和感を感じます。(笑)

Googleアースを3Dにし回転してみます。
写真の上が山側で上流になり下の海へと水脈がつながります。

今回の土砂崩れのようすを簡単に絵を描いてみます。

黄色が本来の水脈であり、赤色が土砂が流れてきた部分になります。(大まかなところです。)

黄色の本来の水脈部分の写真になります。コンクリート製のU字溝になっていて、山の下部は土砂で埋まってしまっています。この写真は草刈りの後に撮った写真ですが、土砂だけでなく草木が覆っていて風も抜けない状態でした。

この状態が道路と接続するところまでつづきます。

更には、U字溝の先には道路、その先には堤防があります。出口がこの道路や堤防によって塞がれてしまっているのがわかります。

堤防を超えて土砂が流れたのがわかります。かなりの土砂の量だったとわかります。

この状況から読み解けることは、
人の手によって作られたコンクリート製のU字溝(人工的な水脈)は、さまざまな問題を引き起こしています。まず、U字溝は水の流れに加速度を与えるように作られているため、縦方向への浸透が妨げられています。その結果、土砂が必要な箇所に蓄積されず、下流でのみ土砂が溜まってしまいます。

さらに、流れが詰まることで草木が過剰に繁茂し、藪化が進んで風の通り道も遮られています。本来、海まで風が抜けるはずのエリアが風通しが悪くなってしまい、環境が悪化しています。

こうした詰まりによって、土中の水分が大雨時に過剰に蓄積され、液状化が発生しやすくなり、崩れやすくなり、上流で土砂が引っかかり、そのため、地形が乱れ、本来の水脈の方にながれることができず、土砂が集落に流れてしまったのだと思います。これは本来の自然な水脈が機能しないために起こっている現象です。言い換えれば、U字溝が生み出したと言ってもいいと思います。
結果として、これまでに経験のないような水や土砂の流入が集落で発生しました。しかし、自然環境から見れば、この状況は人間の開発が引き起こしたものであり、自然が持つ本来の調和が損なわれた結果と言えます。

また、もうひとつ別の問題をかかえていると思います。
少子高齢化の問題です。
U字溝の土砂は昨日今日溜まった量ではありませんでした。日常的な泥さらいと風通しの草木の手入れができていれば、大規模な土砂崩れは避けれたのかもしれません。
しかし、集落には人手が多くいません。昔は多くの人が居て、集落をあげて日常的な管理をされていた時期もあったと思います。
この災害は、異常気象、人の開発によっての自然機能の損失、そして社会的な問題が絡み合って引き起こされた複雑な災害なんだと思います。

そこで、この状況を把握して最も省エネで効果的な作業は何か?そんな応急処置を考えていきます。


この沢口の詰まりを本来の自然な水脈に繋がるように地形を回復させることが重要です。具体的には、土砂や流木を単に除去するのではなく、これらの自然資源を活用して地形を整え、本来の水脈の流れに沿った形に戻していくことです。こうすることで、自然が持つ本来の機能を回復させ、土砂の流れや水の通り道が適切に維持されるようになります。

また、U字溝に詰まった土砂は、全て取り除くのではなく、流線型に蛇行するように配置し、自然な脈動線を形成するようにします。こうすることで、空気の流れもその形状に沿って動き、縦方向にも空気が浸透するようになり、細かなひび割れのような道筋ができます。この構造により、日常的な雨や風が流れをサポートし、詰まりやすかった水脈が少しずつ自然に成長し、整備されていく環境が育まれていきます。

写真は本来の脈筋にもどしたところ。

U字溝に繋いでいきました。



今回の能登災害復興作業を通じて、真っ先に手をつけるべき場所と、自然の脈を繋ぐ大切さを痛感しました。この脈を塞いでいるのは、私たち人間の開発です。今こそ、自然の機能を損なわない開発と管理が重要であると考えています。将来予測される東南海地震への備えも含め、自然と共生する暮らしと開発の在り方を確立していくことが、これからの私たちの使命だと強く感じています。

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